復活節第7主日「昇天後の世界」( 2018年5月13日)

父と子と聖霊の御名によって  アーメン

 

 40日にわたる復活節も先週の昇天日をもって終わりになりました。イエスは私たちの罪の赦しのため十字架の死を選ばれました。しかし3日後に復活され、40日にわたって弟子たちに姿を現され、励まし続けられました。
 そして40 日が過ぎ、いよいよイエスとの別れの日が来たのです。40という数字は聖書に良く出てくる数字です。ノアの箱舟、出エジプト、イエスの荒野での生活の日数などに出て来ますが、いずれも神から救われたときに使われています。そこで40は「救い」を表していると考えられています。イスラエルの人々の 「救い」のための40年、イエスの荒野の誘惑からの「救い」のための40日、私たち人類の「救い」のための復活後の40日と言うことになります。

 

 昇天日の日課に選ばれていますルカによる福音書24章49節以下、使徒言行録1章1節以下によりますと、復活から40日経った頃、エルサレムの南東約3kmにあるベタニヤに、イエスは弟子たちを集められます。このべタニヤはイエスにとっても思い出深い町でした。イエスはこの村をよく訪ね、特にその生涯の最後の週には、ここからエルサレムへ通われました。(マタ21:17, マコ11:11-12等)。この村にはラザロとその姉妹のマルタとマリヤ(べタニヤのマリヤ)が住んでいました(ヨハ11:1,12:1)。シモンの家で、女性がナルドの香油をイエスにささげたのもこの町でした。(マタ26:6-13,マコ14:3-9, ヨハ11:1-8)最近の発掘によってイエスの時代の遺跡が発見されているそうです。

 

 そのべタニヤでイエスは最後に次の様に言い残されます。
「エルサレムを離れず、わたしが言ったように、父の約束されたものを待ちなさい。ヨハネは水で洗礼を授けたが、あなたがたは間もなく聖霊による洗礼を授けられるからである。」
 使徒たちは 「主よ、イスラエルのために国を建て直してくださるのは、この時ですか」と尋ねます。
 当時のイスラエルはローマの支配や、祭司や律法学者等による民衆支配で荒れ果てていま した。経済的な困窮者や病気の人や障害者などは差別され、生きるのにも大変な時代でした。民衆は一 刻も早く自分たちの国が立て直される事を待ち望んでいたのです。

 

 そこで、イエスは言われます。「父なる神がその時や時期は示されるから、そのことについては、あなたがたは気にしないでよい。あなたがたの上に、約束されていた聖霊が降ると、あなたがたは力を受ける。そして、エルサレムばかりでなく、ユダヤとサマリアの全土で、また、地の果てに至るまで、わたしの証人となるでしょう。」 と新たな時代が始まることを告げられるのです。
そして天に昇られたのでした。

 

 弟子たちはイエスの死で全てが終わったと感じていました。復活のイエスに出会う時も、鍵の掛かった家の中や湖の岸辺など、人目を気にしながら、こそこそと過ごしていました。
 その弟子たちが、昇天されるイエスを見て、喜び賛美しながらエルサレムに帰ってきました。自信を取り戻したのです。もう逃げ隠れすることもなく、イエスが言われたように神殿で祈り、費美し、神からの贈り物(聖霊)を待ち続けたのです。

 

 弟子たちは、新たな気持ちで、イエスが言われたように全世界に福音を伝える組織を作っていきます。今日の使徒言行録ではその様子が記されています。ユダに代わる弟子をくじ引きでマティア(「ヤハウェの贈り物」の意味)を選んだことが記されています。
 イエスの死は終わりではなく、新たな時代の始まりだったのです。イエスの死という絶望の時期を経て、聖霊に守られて生きる新たな希望の時代に入ったのです。

 

 愛する師を失った弟子たちが失望したのと同じように、私たちも愛する人を失うと大きな失望を味わいます。しかし、その人の思いや言葉が、私たちの心の中に深く刻み込まれているなら、いつでもどこでも、その人の声や思いを思いだすことが出来るのです。そして、その人の思いや言葉は私たちが悩みの中にある時、私たちを励ましてくれます。
 私の父も母もすでに天に召されましたが、その声は今でも耳の奥に残っています。そして時や場所をこえて聞こえてきて、私を励まし慰めてくれるのです。

 

 愛する人を失った時の失望は私たちを励ます力に変化しているのです。その人の姿や形が見えなくなっても、 その思いと言葉がしっかりと私たちの心に残されているとき、その人の姿や形を超えたものになっていくのです。

 

 イエスは私たちを慰め、励ます言葉をたくさん残されました。その言葉は折に触れて私たちの心に浮かんできます。歩いている時も、寝床の中にある時も、場所や時間を選ばず浮かんできます。その御言葉の一つ一つが、私たちを慰め励ましてくれるのです。特に、この40 日間にイエスが繰り返し言い残された言葉があります。「私が愛したように、互いに愛し合いなさい。これは掟です。命令です。」この言葉が世界中で実現された時、「神の国」が実現するのです。しっかりと心に留めておきたいと思います。

 

 このあと弟子たちに聖霊の力が働きます。いわゆる聖霊降臨が起きるのです。来週の日曜日は、その聖霊降臨日になります。

 

 今、私たちは聖霊の時代を生きています。この聖霊の時代を、私たちもイエスの御言葉に励まされながら、新しい掟を実現できるように、信仰生活を送っていきたいと思います。

レンブラント「キリストの昇天」